人生は無いものねだりの繰り返しだ。
子供の頃からスポーツカーが好きで、社会人になっても熱意は収まらずに買ったのがマツダのロードスターだった。
2シーターでオープンカー、そしてマニュアル車。
不便という言葉で検索するとロードスターは類義語として出てくるんじゃないかと思う。
通勤だけでなくキャンプにまで使ったし、他にもっと不便なスポーツカーはあるだろうから、類義語くらいにしておく。
しかし、不便なんて言葉を忘れるくらい魅力に溢れる車だった。
微笑みかけてくれているようなフロントマスク、軽やかに吹けるエンジン、扱いやすい小柄な車体。
暇さえあればロードスターに乗っていた。
今は撤去されてしまったお台場にあるパレットタウンの観覧車と共に
結婚してからもしばらくはロードスターに乗り続けていたが、次第に不便さが気になるようになってきた。
独身時代は自分一人がデフォルトで、そこに彼女が乗るだけだったから2シーターでも良かったのだが、結婚すると夫婦2人がデフォルトになる。
そこから妻や自分の親を乗せるとなるとロードスターでは途端にキャパオーバーになってしまう。
車高が低く、擦ることも多いし、荷物は全然積めない。
2台持ちすることも考えたのだが、将来起こりうる出産やマイホーム購入等への貯金を考え、買い替えを決意した。
そこで次の車の条件は下記の通りとした。
・最低5人乗り
・荷物をたくさん積める
・素性が良い(車幅感覚が取りやすい等)
・走りが良い(足回りは硬めが好き)
・できれば4WDがいい
この条件にあうSUVを何台か試乗した。
近年ミドルクラスSUVの車幅が拡がっていく中で、フォレスターは1810mmと幅はありながらも見切りが良く、違和感無く乗ることができた。
また、他のSUVがクーペのようなスタイリングとしている中、スクエアなデザインで窓が大きく、後部座席が広い点も気に入っている。
クーペスタイルのSUVにも何台か乗ったが、ピラーのせいか後部座席が暗く感じ、視界も狭いので車酔いしそうな感覚があった。
そしてスバルのディーラーに行って出会ったのが、元営業車として展示されていた今の愛車である。
元々は紺色のフォレスターが中古車サイトに掲載されていたので見に行ったのだが、隣に置いてあったセピアブロンズメタリックのフォレスターの佇まいは未だ忘れない。
一列にフォレスターが並んでいる中でもひときわオーラを放っているようであった。
運命の出会いとはこのことである。
営業マンから紺色の車の車両の程度について説明を受けるも、私も妻も心ここに在らず。
セピア色のターボモデルに心奪われていた。
高級感ある色は都市部にもよく馴染み、アウトドアにもよく似合う。
結局、そのセピア色の車をその場で契約した。
もともとハイブリッドのモデルを見に行ったのだが、ちゃっかりグレードが上がりターボモデルを買えたことも嬉しい。
ターボモデルである「スポーツ」グレードは低回転からトルクが立ち上がり扱いやすく、内装もスエードと本革のコンビネーションが上品でとても気に入っている。
AWD(上記では4WDと記載したがスバルではAWDと称しているためAWDと記載)でスタッドレスタイヤも購入したので、どこでも気兼ねなく出かけられる。
今までは運転すること自体が楽しみであったが、車を乗り換えて以降は行き先のアクティビティ含めて出掛けることも楽しみになった。
ただ、CVTのレスポンスの悪さや車高の高さに由来するロールのネガに触れると、いや、ネガに触れなくてもあの軽やかに走るロードスターが恋しくなる時がある。
あの車は魅力の塊だ。所有していたことを誇りに思う事すらある。
車という物体に自分の神経が繋がり、意のままに操れているような錯覚に再度浸りたいと何度願ったことか。
それでもなお、トレードオフとなる項目もあり、全てを満たしてくれるものなど無いから、今のライフスタイルを鑑みるとフォレスターを選んだのは正解だったと思っている。
…結局無いものねだりなんだ。車に限らず。
自分の中で、「あの時の判断が正解だった」と言い聞かせながら前に進むしか無い。
「人生とはつなひきだ」とはうまく例えたものだと思う。